実はテレビはラジオより一年早い。
一九三二年に、アメリカのウェスタン航空が、フォッカーF10のキャビンに、世界で初めてテレビ受像機を備え付けている。
ただし、これらはいずれも実験的なもので、継続した機内エンターテインメントの提供ではなかった。
映画からビデオへ戦後、空の旅が次第に一般化しはじめると、オーディオとともにビジュアルが機内エンターテインメントの主流になる。
オーディオも、最初は単なる管状のイヤホンで聴いていたのだが、やがてヘッドホンになり、現在ではノイズリダクションのハイクオリティーヘッドセットヘと変わった。
ビジュアルのほうは、ジェット旅客機の初期タイプであるDC-8、B707の時代には、ビデオテープをテレビーモニターで流すことが多かったが、シャンポージェットの出現で大きく変化する。
キャビンの広いワイドボディ機では、二本の通路の中央部分に大きなスクリIンが設置でき、映画の上映に有利になったのだ。
長尺物の映画が上映され、やがて地上での封切り前に機内で新作が見られるようにもなった。
テレビは画面が小さいことが決定的に不利で、またコスト高もあって、次第に廃れていく。
こうして機内映画がPESの主流になった。
ところが、あるアイディアをきっかけに、テレビが見直されるようになる。
それは、一九七五年にアメリカン航空が導入した、コクピットーカメラたった。
これは、コクピットにカメラを設置し、コクピット越しに見る離着陸の光景をキャビンのテレビーモニターに映し出すというもの。
このシステムのおかげで、乗客がパイロットと風景を共有できるようになったのだ。
このコクピットーカメラは乗客に好評で、世界のエアラインが追随したのである。
さらにこれは、機体の外部、コクピットの下方に小型CCDカラー・ビデオカメラを取り付けるシステムへと進化した。
このカメラによって、離着陸の様子や、上空からの地上の景色、雲海の姿などを、キャビンのワイドスクリーンに映し出すことができる。
キャビンの装備が、スクリーンタイプ、テレビーモニタータイプなどの違いはあるものの、ビデオーシステムを中心とするPESは、すっかり定着した。
その背後には、ソニー、パナソニック(松下電器産業)など、日本の世界ブランドの技術革新があった。
ハードの進歩と並行してビデオソフトも充実し、国際線では新作映画が上映されるし、各エアライン独自のソフトも、スポーツや教養プログラムなど、クオリティの高いビデオソフトが増えている。
その後の日本メーカーの目覚しい技術革新などもあって、ふたたびテレビービデオーシステムが勢力を盛り返す。
そして現在では、映画も映写機ではなく、ビデオープロジェクターで上映するのが常識になったし、エンターテインメント以外にも、機内設備の案内や、緊急時のインフォメーションなども、ビデオで提供されるようになっている。
さらに、テレビーモニター・システムが進化を遂げ、最近では次項でお話しするように、各シートに液晶のモニターを装備した、パーソナルーモニターの時代になっている。
PESの主役パーソナルーモニターそして更なるハードの進化が次にやってきた。
今や全盛の感がある、パーソナルーモニターがそれだ。
これはシートーテレビ、プライベートースクリーン、パーソナルーモニターなどと呼ばれる、液晶の個人用テレビーモニター。
これがPESの主役の座に躍り出たのだ。
シートのアームレスト部分に組み込まれた、ポップアップ式(普段は収納されていて、観るときに飛び出してくる)の、六・五インチ程度の液晶画面のモニターが、パーソナルーモニターのはじまりである。
その後、日本航空、シンガポール航空、ヴァージンーアトランティック航空などが10・四インチモニターを導人したことから、ビジネスクラスPES戦争に火が点いた。
今や九インチ以上は常識だが、その後もさらに画面大型化競争はエスカレートし、ついに全日空は、新ファーストクラスの個室タイプシートに、何と一五インチのモニターをセットした。
デスクトップパソコンと同サイズである。
画面の大型化だけではなく、視聴方法もフルデジタルAVOD(オーディオービデオーオンーデマンドの略)に進化している。
オンーデマンドだから、好きな時間に好きなソフトを観ることができる。
しかも早送り、巻き戻し、一時停止も自由自在だ。
ソフトも、映画、ビデオ、音楽にゲームと多彩で、しかもチャンネル数も増え続けている。
全日空のビジネスNEWSでは、現在、映画とビデオで二〇チャンネル、音楽二八チャンネル・四〇〇曲、ゲームチャンネル。
こうなってくると、「時間をうっちゃる」どころではなく、PESのチェックに追われて、長距離ルートでも時間が足りなくなるくらいだ。
ちなみに筆者の最高記録は、エールーフランスの成田~パリ間で、映画を四本半観たこと。
五本目は、さすがに途中で眠ってしまった。
全日空の成田~サンフランシスコ間で四本という記録もある。
かつてPESのチャンネルーセレクター、ボリュームースイッチは、シートのアームレスト部分に組み込まれていたが、今では、独立したコント口-ラーで操作するようになっている。
さらに、このコントローラーが電話を兼ねているものまである。
モニターの設置方法も、ポップアップ式から、大型化に伴って前席のシートバックにビルトインする方法が多くなっている。
さらに日本航空のファーストの新シート、パーソナル空間を実現したJALニュー・スカイスリーパー・ソロでは、コンソールースペースに置くノートパソコンータイプになり、全日空の新ファーストーシートでは、前方のコンソールに一五インチモニターを立てて置いている。
B777の導入あたりをきっかけに、エコノミークラスでも前席のシートバックに、パーソナルーモニターをビルトインするエアラインが増えてきた。
日本国内線では、旧JASがB777のレインボーシートで、シートバック方式をはじめたのが最初である。
全席にパーソナルーモニター(シートバック)を設置した最初は、ヴァージンーアトランティック航空だった。
一九九三年コー月のことで、時代を先取りしていたというしかない。
太平洋線では、コンチネンタル航空だ。
現在エコノミークラスにもパーソナルーモニターを設置しているエアラインは、日本航空、全日空、ヴァージンーアトランティツク航空、英国航空、エールーフランス、アメリカン航空、コンチネンタル航空、シンガポール航空、キャセイーパシフィック航空、マレーシア航空、スリランカ航空などである(ルート、機種によって設置がない場合もある)。
つまり今や、パーソナルーモニターが、ファースト、ビジネスはもちろん、全クラスを通じてのエンタ土アインメントの主役、主流になりつつあるのだ。
インフライトーマガジン各エアラインが発行するインフライトーマガジン(機内誌)は、それぞれの社に個性があるし、旅の情報や、質の高いエッセイなどが愉しめる。
機内サービスの概要なども載っているから、チェックする価値はある。
独自のインフライトーマガジンを発行したのは、ユナイテッド航空が最初とされている。
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